Aハハハハと笑った。笑ったと思った途端、素子の皮手袋をはめた手がその女の横顔をぶった。
「バカやろう!」
亢奮で顔色をかえた素子は、早口な日本語で罵り、女を睨んだ。
「ひとを馬鹿にしやがって!」
また日本語で素子はひと息にそう云った。あまりの思いがけなさに、瞬間、伸子は何がなんだかよくわからなかった。同じようにあっけにとられた物売女は、気をとり直すと、左手で、素子にぶたれた方の頬っぺたをおさえながら、右手を大きくふりまわして、
「オイ! オイ! オイ!」
自分の山羊皮外套の前をばたばた、はたきながら泣き声でわめきたてた。
「オイ! オイ! この女がわたしをぶったよウ。オイ! わたしに何のとががあるんだよう! オイ! オイ!」
若い物売女のわめき声で、すぐ四五人の人だかりが出来た。よって来た通行人たちは、わめいている女に近づいてよく見ようとして、素子をうしろへ押しのけるようにしながら輪になった。
「どうしたんだ」
低い声でひとりごとを云いながら、立ちどまるものもある。素子は、よって来る人だかりに押されて輪のそとへはみ出そうになりながら、急激な亢奮で体じゅうの神経がこりかたまった
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