ノ立って、おとなしくかけあいを傍聴するのだった。
「さ、七十五カペイキ……いいだろう?」
 リンゴ売は、いこじに、
「八十五カペイキ!」
と大きな声で固執した。
 するとそのとき、リンゴ売と並んで、すぐ隣りの雪の上に布をかぶせてなかみのわからない籠をおいて、赤黄っぽい山羊皮外套の両袖口からたがいちがいに手をつっこんで指先を暖めながら、フェルトの長防寒靴をパタパタやってこのかけひきを見ていた若い一人の物売女が、かみ合わせた白い丈夫そうな前歯と前歯の間から、真似のできないからかい調子で、
「キタヤンキ!(支那女)」
と云った。はじめと終りのキの音に、女の子がイーをしたときそっくりの特別な鋭い響をもたせて。――
 たちまち素子が、ききとがめた。リンゴ売の方は放り出して、
「何ていったのかい」
 花模様のプラトークをかぶったその物売女につめよって行った。頬の赤く太ったその若い女は、素子にとがめられてちょっと不意をくらった目つきになったが、すぐ、前より一層挑戦的に、もっと、意識的に赤い唇を上下にひろげて、白い歯の間から、
「キタヤンキ」
と云った。近づいて行った素子の顔の真正面に向ってそう云って
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