謔、に、女を睨みすえたまま立っている。物売女は、一応人が集ったのに満足して、さて、これから自分をぶった女を本式に罵倒し、人だかりの力で復讐して貰おうとするように、頬っぺたを押えて、から泣きをしながら一息いれた。そのとき、女の背後の車道の方から、スーと半外套に鳥打をかぶった中年の男がよって来た。瘠せぎすで鋭いその男の身ごなしや油断のない顔つきが目についた刹那《せつな》、伸子は、これはいけない、と思った。むずかしくなる。そう直感した。伸子は、いきなり素子の腕を自分の腕にからめて輪のそとへひっぱり出しながらささやいた。
「はやく、どかなけりゃ!」
素子は、神経の亢奮で妙に動作が鈍くなり、そんな男がよって来たことも心づかず、伸子が力いっぱい引っぱって歩き出そうとするのにも抵抗するようにした。
「だめよ! 来るじゃないの!」
さいわい、物売女をとり巻いた人々は、真似《まね》の泣きじゃくりをしている女とまだ伸子たちとの関係に注意をむけていない。二三間、現場をはなれると、はじめて素子も自分がひきおこしたごたごたの意味がわかったらしく、腕をひっぱる伸子に抵抗しなくなった。二人は、出来るだけ早足に数
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