三人をつみこんで橇は、トゥウェルスカヤの大通りへ向けていた馬首をゆっくり反対の方角へ向け直し、それから速歩で、家の窓々の並んだその通りを進みはじめた。いかにも鮮やかな緑色|羅紗《らしゃ》に毛皮のふちをつけた御者の丸形帽に雪は降りかかり、乗っている伸子たちの外套の襟や胸にも雪がかかる。それは風のない雪だった。橇はじき、トゥウェルスカヤの大通りと平行してモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]を縦にとおっている一本の街すじへ出た。そこは電車の通っていない商店街だった。パン屋。本屋。食料品店。何をうっているのか分らないがらんとした幾軒もの店。ショウ・ウィンドウが一面白く凍っていて花の色も見えない花屋の店。店の前のせまい歩道では防寒用に綿入れの半外套を着、フェルトの長靴をはき、ふくらんだ書類鞄をこわきにかかえた男たちが、肩や胸を雪で白くしながら足早に歩いている。茶色の毛糸のショールを頭から肩へかぶった女たちが、腕に籠をとおして、ゆっくり歩いている。向日葵《ひまわり》の種をかんで、そのからを雪の上へほき出しながら散歩のようにゆく少年がある。その街は古風で、商店は三階建てで雪の中に並び、雪の
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