嬌のいい調子で、
「モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の冬、いかがですか」
と云った。
「あなたのホテルは煖房設備よろしいですか」
「ええ、ありがとう。わたしは、冬はすきですし、スティームも大体工合ようございます。あなたは、日本の冬を御存じだから……」
 伸子はすこし別の意味をふくめて、ほほ笑みながら云った。
「日本の雪見の味をお思い出しになるでしょう?」
「おお、そうです。ユキミ――」
 クラウデは、瞬間、遠い記憶のなかに浮ぶ絵と目の前の生活の動きの間に板ばさみになったような眼つきをした。しかしすぐ、その立ち往生からぬけ出して、クラウデは、
「サッサさん、是非あなたに御紹介したいひとがあります。いつ御都合いいでしょうか」
と云った。伸子は語学の稽古や芝居へゆく予定のほかに先約らしいものもなかった。
「そうですか、では、木曜日の十五時――午後三時ですね、どうかわたしのうちへおいで下さい」
 クラウデは小さい手帖から紙をきりとって伸子のために自分の住所と地図をかいてわたした。

 ボリシャーヤ・モスコウスカヤと並んで、大きく古びたホテル・メトロポリタンの建物がクレムリンの外壁に
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