面してたっていた。約束の木曜日に、伸子はその正面玄関の黒くよごれた鉄唐草の車よせの下から入って行った。もとはとなりのボリシャーヤ・モスコウスカヤのように派手な外国人向ホテルだったものが、革命後は、伸子の知らないソヴェトの機関に属す一定の人々のための住居になっている模様だった。受付に、クラウデの書いてよこした室番号を通じたら、そこへは、建物の横をまわって裏階段から入るようになっていた。伸子は、やっとその説明をききわけて、大きい建物の外廓についてまわった。
 積った雪の中にドラム罐がころがっているのがぼんやり見える内庭に向って、暗い階段が口を見せていた。あたりは荒れて、階段は陰気だった。冬の午後三時と云えば、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の街々にもう灯がついているのに、ホテルの裏階段や内庭には、灯らしい灯もなかった。伸子は、用心ぶかくその暗い階段を三階まで辿りついた。そこで、踊り場に向ってしまっている重い防寒扉を押して入ると、そこは廊下で、はじめて普通の明るさと、人の住んでいる生気が感じられた。でも、どのドアもぴったりとしまっていて、あたりに人気はない。伸子は、ずっと奥まで歩
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