はじめ元気よく喋り出して、間もなく素直に悄気た伸子を、その比田礼二という記者は、いかにも愛煙家らしい象牙色の歯をみせて笑った。
「新聞がよめないなんてのは、なにもあなた一人のことじゃないんだから、心配御無用ですよ。――ところで、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のどういう所が気に入りましたか? 新しいところですか――古さですか」
「私には、いまのところ、あれもこれも面白いんです。たしかにごたついていて、そのごたごたなりに、じりじり動いているでしょう? 大した力だと思うんです。何だか未来は底なしという気がするわ。――ちがうかしら……」
「…………」
「空間的に最も集約的なのはニューヨーク。時間的に最も集約的なのがモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]……」
比田は、ポケットから煙草ケースをとり出して、ゆっくり一本くわえながら、
「なるほどね」
と云った。そして、すこしの間だまっていたが、やがて、
「ところで、あなたはロシアの鋏ということがあるのを御存じですか」
ときいた。伸子は、そういうことばを、きいたことさえなかった。
「つまりあなたの云われる、ロシアの可能性の土台を
前へ
次へ
全1745ページ中106ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング