ていた。比田礼二――伸子は何かを思い出そうとするような眼つきで、やせぎすの、地味な服装のその記者を見た。いつか、どこかで比田礼二という名のひとが小市民というものについて書いている文章をよんだ記憶があった。そして、それが面白かったというぼんやりした記憶がある。伸子は、名刺を見なおしながら云った。
「比田さんて……お書きになったものを拝見したように思うんですけれど――」
「…………」
 比田は、苦笑に似た笑いを浮べ、口さきだけではない調子で、あっさりと、
「あんなものは、どうせ大したもんじゃないですがね――」
と云った。
「あなたのモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]観がききたいですよ」
「……なにかにお書きになるんじゃ困るわ、わたしは、ほんとに何にもわかっていないんだから」
「そういう意味じゃないんです。ただね、折角お会いしたから、あなたのモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]印象というものをきいてみたいんです」
「モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]というところは、不思議なところね。ひとを熱中させるところね――でも、わたしはまだ新聞ひとつよめないんだから……」
 
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