チて横腹がいたくなってしまうもの」
「そりゃ御本人がいやだっていうなら、それまでのことだがね」
「フロムゴリド博士にだって、決してわるいことはないと思うわ。プラーグで博覧会とかち合おうなんて、思ってもいなかったことなんですもの」
 伸子は素子をときふせた。カルルスバードへ行かないときまったら、翌日プラーグの市内見物をして、夜の汽車でひと思いにベルリンまで行ってしまおうということになった。
 次の日は朝から細かい雨ふりだった。細雨にけむる新緑の道をゆっくり馬車で行きながら、モルタウ河にかけられている中欧らしい橋や城を観てゆくと、伸子は、たった一日たらずでこのこまやかな趣のある、そして宗教改革者フスのまけじ魂をもった町を去ってしまうのが心のこりだった。それに伸子たちが選んだベルリン行の列車ではドレスデンを真夜中に通過することになった。中欧のフロレンスと云われるドレスデンの美術館も見ないでしまう。
「カルルスバードをやめたんだから、もう一晩とまって、ドレスデンへ昼間つく汽車にしない? 四五時間でもいいから」
 有名なプラーグの天文時計を見るために、市役所に向って行く馬車の上で、伸子は素子に云った。
「やっぱりあきらめきれないわ。ドレスデンなんて、またあらためて来られるところでもないし……」
 しばらく黙っていて、素子は決断したように、
「まっすぐベルリンへ行こう」
 はっきりと云った。
「ぶこちゃんの趣味であっちこっちへひっかかりはじめたら、それこそきりがありゃしない。とにかくベルリンまで行っちゃおう」
 こうして伸子たちは翌日のひる近くベルリンに着いた。そして、かねて中館公一郎に教えてもらってあったモルツ・ストラッセのルドウィクというパンシオン(下宿)に部屋をとった。

        七

 ベルリンには、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で伸子たちと一緒にソヴキノのスタディオを見学したりした中館公一郎がまだ滞在していた。建築から新鋭な舞台芸術の研究にかわったことで多くの人に名を知られている川瀬勇もいた。落付いていられるホテルもないプラーグで素子が、とにかくベルリンまで行っちゃおう、と主張した気持の底には、互に言葉の通じるこれらの人々の顔が浮んでいたこともあらそえなかった。伸子は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で会った新聞の特派員である比田礼二
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