vラーグへ来た伸子と素子とは、そこで思いがけず旅程を変更させるような事情にぶつかった。
伸子たちがウィルソン駅から遠くないホテルへ着いてみると、そこでは近代風なロビーのあたりからアメリカ流のひろいカウンターのぐるりをとりまいて、男女の旅客がひどく雑踏していた。プラーグでは最新式と云われるそのホテルはもう満員になっていて、白と黒の派手な市松模様の床の上にトランクを置いたまま、ことわられた旅客がつれ同士で相談しているのは伸子たちばかりではなかった。いちじにプラーグへつめかけたこれらの旅客は、みんな翌日から開会されるチェッコスロヴァキア第一回工業博覧会へ来た人々だった。東ヨーロッパの交通の中心点であるプラーグへ殺到したこれらの旅客たちのほとんどすべては、伸子と素子とがそこへ行こうとしているカルルスバード目ざしているのだった。欧州で有名な温泉地での遊山《ゆさん》も、工業博覧会へ諸国からの客を招きよせる条件の一つとして、博覧会はカルルスバードで開催されるのだ。
ウィーンから一二〇〇キロもはなれた旧いボヘミアの都。美しいモルタウ河に沿って「一百の塔の都」とよばれている十三世紀以来の都であるプラーグは、その河岸や町のなかのいたるところに豊富な中世紀の記念物をのこしているとともに、大戦後は、民族解放の指導者マサリークを三度大統領としている新鮮な若い共和国の心臓部でもある。伸子と素子とは、とぼしい知識ながらも、ウィーンとはおのずから違った好奇心を抱いてウィルソン駅に下りたのだった。が、ステーションの混雑にひきつづく予想外のホテル難で、先ず伸子が、旅心をくじかれた。ホテルのカウンターにぐっと上半身をもたせこんで部屋のかけ合いをしている男連中の態度は、いかにも自分たちが工業博覧会のために来ている客たちなのだということを押し出したとりなしだった。数人一組の男づれだったり、或は夫婦づれだったり、いずれにもせよ、伸子たちのように博覧会があるということも知らず、室の予約もなく賑いのなかにまぎれこんで来たような女二人づれの旅客などというものは、カウンターの周囲をいれかわり立ちかわりする人たちの間にも見当らないのだった。
時がたつほど、ほかのホテルも満員になってゆく心配が目に見えた。伸子たちは、馬車にのって、プラーグの中心地をすこし出はずれたところにある一つのホテルにやっと部屋をとった。それも
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