ウ師であるマリア・グレゴーリエヴナとその夫でヴ・オ・ク・スに働いているノヴァミルスキー夫妻のクワルティーラにあるような雰囲気があった。みんながそれぞれに自分たちのすべき仕事を熱心にし、乏しくないまでも無駄のゆとりはない暮しぶりだった。夫のノヴァミルスキーと妻のマリア・グレゴーリエヴナが、夫婦とも同じように外気にさらされて赤い頬と、同じようにすこしその先が上向きかげんの鼻をもっているように、ルケアーノフの夫婦と二人の娘たちは、みんな鳶色の眼とゆっくりしたロシア風の動作とをもっている。
 ルケアーノフ一家の暮しぶりには、伸子の心に共感をよびさます正直さがあった。ルイバコフのうちでは夫婦ともが日常生活のどっさりの部分をニューラに負担させ、細君がそうであるように夫も目的のはっきりしない時間のゆとりのなかで暮していた。ソコーリスキーの家庭は、伸子にとって思いもかけずまぎれこんだソヴェト社会の一つのわれめだった。ルケアーノフの一家の、飾ることを知らない人々の自然で勤勉な簡素さは、保が死んでのち伸子の心から消えることのなくなった生活への真面目な気分に調和した。保がいなくなってから、ヴォルガ河やドン・バスの旅行から帰ってから、伸子は、はためには大人らしさを加えた。素子に対しても、おとなしくなった。しかし、それは伸子の心が沈静しているからではなくて、反対に、生活に対するひとにわからない新しい情熱が伸子の内部に集中しているからだった。ますます生きようとしている伸子のはげしい情熱は、ひそかに体の顫えるような、保は死んだ、という痛恨で裏づけられている。まぎらしようのないその痛みは、新しく生きようとしている伸子の情熱に音楽の低音のような深い諧調を与えていた。伸子は自分の内にきこえる響に導かれて、もっと、もっととソヴェト生活にはまりこんで行こうとしているのであった。

 ルケアーノフの主婦が伸子たちの正餐をひきうけてもよいときめたのと、素子が、パッサージ・ホテルに部屋をとったのとが同じ四日目のことだった。
「惜しいな、折角そういうのに――」
 丁度パッサージに部屋をきめて帰ったばかりの素子が、部屋にのこっていた伸子からその話をきいて残念がった。
「――でも、これじゃ、とてもやってかれないし……ぶこちゃんだってそうだろう?」
 伸子は黒っぽい粗末な毛布のかかったベッドの上に坐っていた。
「無理ね
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