uリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》を歩いて行った。
「わたし、びっくりしちゃった」
歩きながら伸子が云った。
「あんな風に出来るのねえ。わたしは、本気で行くさきを考えて、苦心したのよ」
「ああでいいのさ」
日本服なら、片手はふところででもしていそうな散歩の気分で素子が答えた。
「先手をうてばいいのさ」
「――あの宮野ってひと……どういうんだと思う?」
まだこだわって、伸子が云い出した。
「ぶこちゃん、だいぶ神経質になってるね」
「たしかにそうだわ。曖昧なんだもの――西片町の兄さんだのって――誰だって外国にいるとき、お金のことはもっと本気よ。まるで帰れと言われればすぐ帰る人間みたいじゃないの。あの話しぶり……」
宮野という男が、室を出入りするとき妙にあたりの空気を動かさないで自分の体だけその場から抜いてゆくような感じだったことを思い出して、伸子は、それにもいい心持がしなかった。たとえば内海厚という人などにしても、どういう目的で秋山宇一と一緒にソヴェトに来ているのか、伸子たちにはちっともわかっていなかった。秋山宇一が日本へかえっても、彼だけはあとにのこるらしいくちぶりだけれど、それとてもモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]でどんな生活をやって行こうとしているのか、伸子たちはしらない。知らないなりに、内海厚の万端のものごしはあたりまえで、あたりまえにがたついていて、伸子たちに不審の心を抱かせる点がなかった。
「――まあ、どうせいろんな人間がいるんだろうさ、それはそれなりにあしらっとけばいいのさ。――何もわたしたちがわるいことしてやしまいし……」
「そりゃそうよ。もちろんそうだわ。誰だって、ここでわるいことなんてしようとしてやしないのに――ソヴェトの人たち自身だってもよ――なぜ……」
伸子はつまって言葉をきった。伸子も宮野という人を、暗い職業人だと断定してしまうことは憚られた。しばらく黙って歩きながら、やがて低い、不機嫌な声で続けた。
「――嗅《か》ぎまわるみたいなのさ!」
「そんなこと、むこうの勝手じゃないか。こっちのかまったこっちゃありゃしない」
伸子たちは、いつか並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ール》が、アルバート広場で中断される地点まで来た。トゥウェルスカヤの大通りが並木道《ブリ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82
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