カだった、朱の色のしゃれた置きかたそのものまで。しかし、こういう理性的な絵を描いている恭介は、パリの日々のなかで、より自然発生の、より感性的な妻の須美子に、君の絵は絵以前だと云って画架を立てさせずおくことができているのだ。二十七歳と二十五歳の若い夫婦であるだけ、その間にはもう子供が二人生れている若い夫婦であるだけ、恭介がどうでも、自分の絵をものにしようとあせる気分のあることが、伸子にまざまざとわかった。
「――磯崎さんも、たいへんねえ」
 伸子が我知らず重い息といっしょにそう云ったのは、この現代絵画の常識ともうけとられる境地から、磯崎が彼自身の世界をつかみ出して来るためには、これから先の幾階程があるだろう、という感想だった。それを、須美子は、すらりと日常的なたいへん[#「たいへん」に傍点]さに解釈した。
「磯崎も気の毒ですわ」
 まっすぐに正直な視線で、画面にこめられている努力と、その進境をはかろうとするように眺めながら須美子は、
「あちらの御両親がもうすこし、わたしたちの生活を理解して下さると、磯崎もよっぽど楽なのでしょうけれど」
と云った。
「生活費は来ているんでしょう?」
 そうきいたのは素子だった。
「それはどうにか来ていますけれど……こちらの生活を御存じないから、どうしても若いもの二人がパリですきなことをして暮しているとお思いになりがちですのね」
 返事のしようなくて伸子たちはだまってしまった。
「あちらの御両親は、わたしがお金をつかいすぎる女だとお思いになっているんです。それが、せつないんですの。あいにく、子供が二人もつづけて生れてしまいましたし――絵の具なんかも一年一年と高くなって来ていますのよ、磯崎だってどの位買いたい絵の具や額ぶちのようなものを辛棒して買わずにすましているかしれないんですのに――それを思うと、何だかわるくて……」
 須美子は、素子を目の前に見て話しているうちに日本の生れた家や気だてのおとなしい親たちを身近に感じるらしかった。
「あちらの御両親に、わたしがおわかりになっていないのも無理はありませんわ。わたしたち結婚してたったひとつき、磯崎の田舎の家にいたきりなんですもの」
「田舎って――どこなんです?」
 関東地方の、織物の中心地とされている小都会が磯崎の生家の所在地だった。彼は、そこの長男だった。
「わたしは、はじめっから御辞退しま
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