トみましょう、そして諒解してもらいましょう、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で十日間で室を見つけるなんて!」
うっすり顔をあからめておこり出した素子を、ルケアーノフは恐慌的な灰色の眼で見つめた。そして、出どころのない場所へ追いこまれたように、
「新聞に出ていた布告をよまれませんでしたか」
それまでだまって話をきいていた伸子をかえりみて訊くようにした。
「どんな布告だったかしら――」
ああそう云えば。――伸子は思い出した。布告《アビヤブレーニエ》などという性質のものだとは思わずに読みすぎたのだが、一週間ばかり前「イズヴェスチア」に一つ小さい記事があった。モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]在住の外国人は個人のクワルティーラに住むことは許されなくなる。外国人はホテルに住むことを求められる。そんな意味だった。伸子は、そういう外国人[#「外国人」に傍点]のうちに自分たちが数えられるとは感じなかった。全く、いろんな外国人[#「いろんな外国人」に傍点]がモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]にいる。――たとえば藤原威夫のような。ああいう人が、立派なクワルティーラにいる。だからそういう処置も当然考えられることだ。そう思って読んだだけだった。
「外国人は一般に個人のクワルティーラではうけいれないことにきめられました」
ルケアーノフがそう云ったとき、伸子は、自分で予想もしていなかった悲しさにうたれた。深く傷つけられた感じだった。伸子たちは外国人にちがいないけれども、それならば、と、トランクをいくつも橇につんでボリシャーヤ・モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]・ホテルへ納るような、そういう種類の外国人[#「外国人」に傍点]ではなかったし、ソヴェト生活に対して、そういう気分をもって暮してもいないのだった。
素子も黙った。黙ってタバコの煙をはいている。
こわい顔をして口をきかなくなってしまった二人の女を見ながら、ルケアーノフは不安にたえないようだった。彼はくりかえして、
「よろしいですか。わたしはあなたがたが事情を完全に了解されることを期待しています」
と云った。
「全然、個人的な理由からではありません――全然……」
「それは十分わかりますよ」
タバコの赤いパイプを口からとって素子が重々しく答えた。「もし個人的な理由ならば、わたしたちは、一年
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