ツよく素子の存在が感じられた。白い猿は、おこった眼をしているようだった。伸子は、なだめるように白い猿の、長くて真白い毛なみをなでた。おととい、佐々の一行が北停車場からモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ立ってゆくとき、伸子はつや子に水色|繻子《しゅす》で縫った袋を一つことづけた。伸子は、あわただしいペレールの家の客間で、ひまを見ては素子のためにその袋を縫った。金色のリボンで口をしめられた出来上りまずいその袋の中には、素子がブラウスにするだけの白いフランスちりめんと、素子が泊っている宿の娘たちへの御愛嬌になりそうなねりものの頸飾り二つ、ネクタイずきの素子のために変り織のネクタイを入れておいた。

        三

 パリの秋は深く、クラマールの生活は季節のただなかにあった。
 伸子が引越して行った翌日は日曜日だった。こんな日に、このクラマールで、とじこもっているなどということはありえなく美しい秋日和だった。伸子は蜂谷良作とこの土地に住んでいる画家の柴垣弘三と二人に誘われて、クラマールの浅い森をぬけ、ムードンの丘の、ほんものの森を通って、夕方までの長い散歩をした。
 目抜き通りといっても、そこには小さい商店が並んで間遠な単線の郊外電車が一本とおっているきりの小さいクラマールの町。電車通りから、だらだら坂をのぼって住宅地があった。こぢんまりした中流風の住宅のぐるりは云い合わせたように鉄柵でかこまれ、門から玄関までの間に前庭をもっていて、どこの家にも果樹が植っていた。ゆるい坂の片側にある小学校の日曜日で人気ない広い入口の、一方には「女児《フィユ》」もう一方には「男児《フィス》」と書かれているのも、伸子におもしろかった。パリの市内にも小学校はあったろうのに、伸子は、クラマールへ来て、はじめて、そんな古風な区別をしているフランスの小学校の入口を発見した。
 町では一番というカフェーは日曜日の午前中は店をしめていて、テーブルの上に、足をさかさにした椅子が片づけられたままだった。そのカフェーの広場のマロニエの樹の下に、ゆうべ夜ふけまで祭の人を集めて賑っていた小さい舞台が、ひなびた造花の花飾りをつけたままきょうは忘れられている。
 町を出はずれて、平らに畑のつづく道になった。その道をすこし行くと、いつかクラマールの森へ入った。森の小道には、クラマールの子供たちもひろい飽
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