ニしたジャックは今年十九歳だった。十七のとき、家に雇っていたおない年の娘を身もちにさせ、それが問題になって家出しようとしたジャックを、どうやら落付けて、店を手つだうようにしたのは蜂谷だった。
はじめてクラマールへ行って、ベルネの部屋を見たかえりの話だった。伸子は、
「それで、娘の方はどうなったのかしら」
ときいた。
「日本のやりかたと全く同じだな。そっちはおふくろがひきうけて、金で解決したらしい」
ジャックは、初対面で、言葉の自由でない伸子には、ひとことも口をきかなかった。武骨な、頭がおそく働くような青年だった。フランシーヌは、興奮していて、顔のよこにたらしている艷《つや》のない栗色の捲髪をときどき手で払いながら、テーブルに片肱をかけ、鼻にかかる声を一層ひっぱってできるだけ大人の女のように蜂谷と話している。ルーマニア人を父にもっているフランシーヌの顔だちには、東洋風な特徴があった。彼女は、物憂げな優美さを自分につよく添えることがその特徴をいかすために洗煉されたポーズだと信じているようだった。
伸子の中にいる、白い猿はますます生きたものになり、その存在を主張した。それがなくなれば、伸子は何かを自分の中から失うことだという感じが抑えられなくなった。何のために、自分はあんなにせき立って――猿をうっかり忘れるほど――クラマールへ来ることをいそがなければならなかったのだろう。蜂谷は、伸子が来てさえしまえば、そのあとに伸子が何を忘れて来ようと、それについて伸子がどんなに心苦しく感じていようと、たかがおもちゃ一つときめて、無頓着でいるのも、心持よくなかった。全体としてそんなことを思う自分がいやなのだった。
伸子は、
「フランシーヌ、ごめんなさい」
そう云って、テーブルから立った。
「わたしの猿が呼んでいるの。わたしは行ってつれて来なければならないわ」
ヴェルサイユ門のところで、四十分後に皆とおち会うことにして、伸子は、モンソー・エ・トカヴィユへタクシーを走らせた。風のようにホテルの表ドアをあけて入って、鍵をかりて、伸子は七階の屋根裏部屋へのぼって行った。衣裳棚をあけた。居た。白い猿は無事にまだそこにいた。
「猿さん!」
伸子は白い猿をトウィードの秋外套の胸に抱きとって一分ばかりそこのディヴァン・ベッドに腰をおろしていた。猿さん! 声に出してそう呼んだとき、伸子の心に
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