サれもいいだろう。――だがおっかさんに一応きいてからの方が無事だよ」
 寝室へゆくと、伸子が何とも云い出さないうちに多計代が枕の上から白眼がちの眼づかいで娘を見上げた。
「だれをお湯へいれたんだい」
 ベルの音をきいたとき、まっさきに伸子の頭に閃いたのは、浴室にまだこもっているにちがいない湯気やシャボンの匂いのことだった。多計代は、つや子からきいて、もうわかっていないはずはないのに、伸子にそれをきくのは、悶着の口火のためなのだ。
 しずかに友愛のただよっていた雰囲気は、いちどきに変った。多計代の状態のわるいとき、佐々の家族をおしつつむ不安な空気がみなぎりだした。それが、病気そのものについての不安ではなくて、神経的なものであるだけ、つましい気立ての須美子をいたたまらなくさせ、伸子も、気の毒でとめようがなくなった。
「ごめんなさい。あいにくなことになってしまって」
「いいえ、いいえ。あなたのお心もちは、ほんとにうれしく頂きましたわ」
 伸子はこまりきって、恥しさと苦しさのまじった心で須美子を送って出た。途中で日本料理店により夕食のためのちょっとしたみやげをわたした。

 ジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の五日間は、多計代をたのしませるよりも多く、そこにいる日本人たちの暮しぶりに対して神経をたかぶらせたらしかった。
 来年早々ロンドンで開かれる軍縮会議の下相談に、イギリスから労働党首相のマクドナルドがワシントンへ出かける計画が発表された折からであった。こんどのマックの旅行の本質が、英米帝国主義間の増艦競争に妥協点を見出すためであることは、すべてのひとに明瞭であった。国際連盟を中心とするジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]の、狭くて見栄坊な国際社交界での日本人たちの気分は、そんなことからも刺戟されていて、おそらく多計代のかたくるしくて、外国の風に順応しない性格は、客として来られた人たちにとっても、客として行った多計代にとっても、しっくり行かなかった模様だった。
「大使でも公使でもないものが、公《おおやけ》の金を湯水のようにつかって、ああいう景色のいいところであれだけの暮しをしていられるんだから、津田さんが、日本よりジェネ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]がいいというわけさ。留守番ばかりさせられている奥さんが見たら、どんな気がしなさるだろうね」
 しか
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