A自分たち夫婦で使ってしまうことにしたのだ。
 伸子は、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]で手紙をうけとったときから腑に落ちなかった佐々の家族の旅行の本質を、はじめてつかむことができるように感じた。多計代が、保の分骨を錦につつんで、まるでそこに一人の人が存在しているようにつれて歩き、ホテルの室でもアパルトマンでも特別な置場所を与えていることも、親たち夫婦のこんどの旅行についてのある心持の表現かもしれなかった――保にもパリやロンドンを見せてやっているのだという。――
 年をとってから秘蔵の次男に自殺されるというような深い落胆を経験した夫婦の、親として哀切な思いに、幾晩か語りあかして出て来た旅であろうのに、その一行が親も子もてんでんばらばらな性格の向きのまま、それだけは家族に共通な互の強情さでもって、揉めながら日をすごしているのも、佐々の家らしい現実であった。哀傷は、多計代のこころを苦しめ、乾きあがらせ、病的に過敏にしているけれども、それをしっとりと和らげ無慾とする作用となってはいない。どうせ、やがてみんなあのひとのものになるのに、と和一郎の金の話にふれて云ったとき、多計代の声には一つの響があった。
 伸子は、そろそろ父の頭のマッサージを終りかけた。
「結局和一郎さんたちはどういうことになるの? 一緒につれておかえりになるつもり?」
「あの連中は、暫くのこして見ようと思う。幸、多計代の健康が思ったよりいいからね」
「ここへ?」
「おれの考えではイギリスの方がいいと思う。――伸子はどうする」
「わたし?」
 思いもかけない自然さで質問が大飛躍したのに伸子はあわて、上気した。伸子は一所懸命なひと息の云いかたで答えた。
「わたしは、お父様たちがこっちにいらっしゃる間はこっちにいて、モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]へ帰ります」
 これは、ふた月まえにモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]を出て来るときから、この質問がおこったときのただ一つの答えとして、伸子の心にかたくしまわれていた言葉だった。
 泰造は、かたずをのんだような伸子の語調に格別注意をはらわず、
「やっぱりモスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]がいいかい?」
 あっさり、自分の知らない土地についての意見をきくように訊ねた。
「それは、ちがうわ。こっちへ来てみると、モスク※[#濁点付き
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