゚かみ[#「こめかみ」に傍点]を揉みながら、
「どうだい、吉見さんは来ますか?」
「迎えに来てくれるんですって、よかったわ」
「そりゃよかった。一人で帰るつもりなのかと思っていたところだ」
泰造の様子を眺めていた伸子は、立って父の椅子のうしろにまわって行った。
「お父さま、わたし頭をもむのがうまいのよ、すこし揉みましょう」
泰造の頭は、左右の角を円く充実してよく発達していた。脳天のところが、よくみのった実の丈夫な殼のようにしまって低くなっている。泰造のその頭は、マッサージしている伸子の指さきに今夜はのぼせ[#「のぼせ」に傍点]をつたえ、伸子が子供のときからかぎ馴れているオー・ド・キニーヌの匂いがする。あったかくて、重くて大きい父の頭にさわるのは、何と久しぶりだろう。伸子は、麻のハンカチーフごしに、父のはげた頭へ自分の頬をふれた。
「お父様も、御苦労さま」
「うちの連中にも困ったもんだ。みんながてんでに勝手なことばかり云っている」
父のうしろに立っていて、その頭をマッサージしていることは、伸子を口のききやすい位置においた。泰造にしても同じ工合らしかった。
「和一郎にも困る」
それは体裁をつくろったところのない云いかたであった。
「――ねえ、お父様、わたしには分らないことがあるのよ。和一郎さんが、うんと不平なの、御存じ? どうして、ああなんでしょう。あんなのに、つれていらっしゃらなくたってよかったのじゃないのかしら。――二人ぎりでいらしって――」
「そこだよ、おれの気持が誰一人わかっていないんだ。多計代はいよいよ決心して、どうしても死ぬまでに一度外国を見ておきたいというし、医者は健康を保障できないというし、おれも考えた。多計代にすれば保を失ったことは、将来の希望を奪われたと同じなんだから、おれもこの際、思いきって多計代の最後の希望を実現してやろうときめたわけだ。何しろ医者がそういうんだから、出かけるについては、万一のときの覚悟がいる。何事かあるとき、多計代は子供たちの顔を見たがるにきまっている。そのとき悔んでも意味をなさないから、こんどは、あらゆる犠牲をしのんで、みんな連れて来たんだ」
つや子までがこんどの一行に加えられ、しかもつや子自身のためにはプランらしいものの立てられていないわけも、それで伸子に得心がいった。
「さもなければ、こんどのような旅行は、計画そ
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