フ衝突や争いを、今夜の話の内容と比べれば、どちらの側にも打算がなくて若々しく、さっぱりしたものだった。伸子は、悲哀をもって、佐々の家庭にも新しい局面がひらかれたことを感じた。
「お母様、よく覚えていて頂戴。わたしはもうこれから決して、お母様と和一郎さんとのお金の話には立ち入らないことにきめてよ。こんどは、偶然あんなことで仕方がなかったけれど……。こんどだって、お母様が思っていらっしゃるよりも和一郎が云い出した心持は根が深いと思うから、わたしは実際的に処置した方がいいと思っただけなんだから」
「――何も彼も、わたしが行届かなくて、相すまないことだよ」
多計代は、あからさまな反語の抑揚でそう云った。
「どこの親が、ためあしかれと思って苦労するものか! 子供も生んだことのないひとに親の気持がわかってたまるものか」
伸子は三十歳になって、現在良人をもっていない。子供ももっていない。母である多計代は、女として伸子が、そこにひけめ[#「ひけめ」に傍点]をもってでもいるように、その一点を狙って放った銛《もり》のように云って椅子から立ち上った。丁度そのとき、アパルトマンの廊下で電話のベルが鳴った。
電話は素子からだった。
「いやにおそいからどっかへ行っているのかと思った――どうした?」
「ちょっと――いろいろあるもんだから」
感情のわだかまりから急にぬけ出せない伸子の声は、うっかりして沈鬱だった。
「――相変らずなんだなア」
素子は、電話口で考えていたが、
「迎えに行こうか」
その思いつきに弾んだ調子だった。
「迎えに行けば、いくら何でも放免だろう」
「じゃ、そうして。来るときね、あのクリーム色の小さい鞄に、部屋着と顔を洗う道具を入れて来て――二人分――いい?」
あんまりおそくなるようだったら、ヴォージラールまでかえらずに、いっそここのブルヴァールのはずれで街路樹のかげに一つ小さいホテルがある、そこへでも泊って見るのもいい。伸子は、いくらか重苦しい雲にきれめの見えた思いで客室へ戻って来た。泰造がひとりで肱かけ椅子に残っていた。
「お母様は?」
「よこにでもなったんだろう。しばらくそのままにしておけ」
泰造は、拇指と小指とで、両方のこめかみ[#「こめかみ」に傍点]のところを揉むようにしているのだった。
「頭痛がなさるの?」
「頭痛というほどじゃないが」
なお自分でこ
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