いるのであった。
「そうだよ。だから何を、というところから評価や形式の問題も当然出るんだ」
ルナチャルスキーもはっきり云っているじゃないですか、そういう云いかたで、今中は盛んにバットの灰をテーブルの上へひろげた空箱のそとへこぼしつつ、黒い小さい眼を動かしつつ、一種体をゆするようにして論じた。脂がのって来ている今中の極めて細い手の指や体全体が神経的粘りをもって口と一緒に引しぼられたりひろがったりするように見えた。何処かシュー、シューという響をともなう彼の声は、一遍ぐっと押えたままその力をゆるめず上顎の方から限りなく対手に向ってのびて来るようで、はたから口を利くきっかけをつかませないところがあるのであった。
重吉は凝っと根気よく聴いていた。そして、非常に沢山いろいろの組合わせで言われているが、立ち入って詳細に見ると、様々の形で今日印刷されていることの範囲にとどまっているのを感じた。重吉の天性のうちに在る芸術的な或る感覚は、もっと身に引きそった事実として、例えば作者の思想と、作品が感性的なものとしてあらわれるべき形象化との相互関係、評価の問題にふくまれていて、而も十分とらえられていない自
前へ
次へ
全43ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング