道づれ
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)三和土《たたき》
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一
山がたに三という字を染め出した紺ののれんが細長い三和土《たたき》の両端に下っていて、こっちから入った客は、あっちから余り人通りのない往来へ抜けられるようになっている。
重吉は、片側に大溝のある坂の方の途から来てその質やの暖簾《のれん》の見える横丁にかかると、連の光井に、
「おい、ちょっと寄るよ」
そう云って、小脇の新聞包をかかえなおした。
「ああ」
重吉はしっかりした肩で暖簾をわけて入った。三和土のところには誰もいず、顔見知りの番頭が、丁寧なようなたかをくくったような顔つきで、
「いらっしゃいまし」
とセル前掛の薄い膝をいざらして自分の衿元をつくろった。重吉が包んだまま投げるように出した古い女物糸織を仕立直したどてらをひっくるかえして見て、番頭は、
「まあ六十銭ですね」
と云った。
「もう大分お着んなっているし、何せこういうもんですからね」
光井だけが店頭の畳のところへかけていて、どてらを見ながら、
「いやに青い糸がくっついているじゃないか」と云
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