主筆山原は法科である。はっきりプロレタリア文学だけを標榜しているのではない雑誌の性質から、詩や小説には時折、同じ雑誌にのっている論文などと比べると全く方向も趣味も逆なようなものがのせられることがあった。
山原が、
「議長」
と声をかけ、つづけてずばずばした調子で、
「『都会の顔と機械』って詩は、ありゃどういうんかね。左翼的キュービスムとでも云うのかしらんが、妙だぞ」
と云った。皆が笑った。編輯をやった戸山がばつの悪そうな顔をしながら、
「異見があったんですが、ましな仕事もするんです」
と云った。横井が、
「先々月の、『文学の行く手』って云う評論よんだか」
と云った。
「同じ人間なんだ――妙だろう?」
山原は、意外だと云う表情で、
「へえ」
と声をひっぱった。
「そういうことがあるもんかね。あれでは、よく覚えていないが、文学の方向をインテリゲンツィアの方向と一緒に、はっきり云っていたんじゃなかったか」
「文学趣味というものが分裂して、旧い内容のまんまでのこっているんだね」
そう云ったのは吉田であった。同じ号の小説の批評も出た。ひととおり話がすすんでから、今中が蒼白い顔にちらりと白く
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