襟をあわせた姿で楕円形テーブルの脚が一本落付きのわるいのを気にしていたが、やがて腕時計をのぞいて云った。
「どうしますか、そろそろはじめましょうか」
背広を着た横井が、
「まだ四五人は来るんじゃないのかい、もう十分まてよ」
今中は、こういう周囲にかまわない成人の態度でハトロン紙で上覆いをしたパンフレット型のものを読んでいるのであった。
「失敬、失敬。おくれた」
重そうな書類入鞄を下げて、山原が入って来た。
「どうした」
すこしおとした声に親愛の響をもたせながら山原は重吉の顔を見て、その隣りにどっかりと無雑作にかけた。
あと二人ばかり来て、愈々《いよいよ》会がはじめられた。発行されたばかりの雑誌「新時代」についての意見がもとめられた。文科の伝統をひいている「新思潮」と是とは別のもので、遙に急進的でもあり、熱量をも持っていた。ここへは、従って、文学を専攻科目としてはいないが、めいめいの人生的な、時代的な要求から、新しい芸術の価値を溢れさせて迸り出た文学運動の方向に沿うている連中があつまった。文科のものは独文の戸山、英文の横井、光井ぐらいであった。農科に籍のあるものもいた。プラウダ
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