から見ると彼の睫毛の濃く長いのがわかった。その眼をしばたたきながら黙ってさっきから光井のすることを眺めていた。重吉が深く背中をもたせて長椅子にはまりこんでいるうしろの壁には、ゴー・ストップと赤地に黒の片仮名でフラッシュのような図案にした新しくない広告ビラが貼りつけられているのであった。
暫くして階段口に数人の跫音がした。単に礼儀からばかりでない気持、当時の学生生活のたしなみとでも云うようなもので、ドアのそとから、ひっそりとしている室内に向って、
「いいかい」
一応声をかけながら、ゆっくりあけて、この文学研究会の中心となっている「新時代」編輯同人の戸山・横井・吉田などが続いて入って来た。最後に、丁度これらの様々の風貌をもち、同じ大学でも属している科は種々である若い人々の宰領という工合で、やや年かさの、しかし体は誰よりも小さい今中が一番あとから現れた。今中は、
「やあ」
と、うすくよごれた鳥打帽をぬいで、喉まである茶毛ジャケツの上へ着た上着のポケットへしまった。そして蒼白い瘠せがたの顔にかかる髪をはらうように首をふって間近の椅子にかけた。
今夜の当番になっている戸山が、おとなしく絣の
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