った壁際にも、荒繩でくくったストック本が雑然とおいてある。籐の大分ひどくなった長椅子、曲木の椅子数脚などが大きい罅《ひび》われのある楕円形のテーブルをかこんで、置かれている。床にもテーブルの上にも、昼間じゅう東京を南から北へと吹きすさんだ大風で夥《おびただ》しく砂塵がたまっていた。どういうわけかひどく古風な、ふちが薄赤くうねうねした電燈のカサが漆喰天井から下っていて、照明が暗いというのでもないのに、その荒れた室内の光景は入って来た二人を黙りがちにした。
 重吉は、鼻の奥でクンクンというような音をさせながら目を瞬き、長椅子へ腰をおろした。光井は一つの籐椅子の背をひっぱって行って、重吉と向いあわせのところへかけ、バットに火をつけた。それから、くつろいだ心持の自然な順序で何心なくテーブルへ肱を置こうとして、光井は埃のひどさにびっくりした顔でそう悪気もない舌打ちをした。煙草の煙が眼に入るのを避けて誰でもやる妙に眉をしかめた風で、光井はそこらにあった新聞をまるめてテーブルの上を拭いた。一面の白っぽい砂塵がなくなった代りに、今度はジャリジャリした縞が出来た。
 重吉はふだんから煙草は吸わない。横顔
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