逢う一人の型にはまっていない慎ましい職業婦人に対して深い好意を感じるにつれて、それらのことが描かれているのであった。
みほ子は、店の性質上、貴夫人、令嬢と云われる部類の人々を多く見ている。それだけに、云われていることがぴったり来た。一層社会の広い範囲が自分たちの生活を正当に評価しはじめたような微かな頼もしさがあった。
その後、その小説の作家が結婚して、相手の娘さんというのは、嫁入仕度に帯だけ何十本とか持って来たそうだというようなことが噂にのぼった。何でも或る俄雨のとき、その令嬢が頭から濡れながら、格別身装をいとおうともせず歩いてゆくのを見て、その様子に心をひかれたということであった。
男としてそういう女を面白く思ったという点もみほ子にはわかる心持がした。が、それにしろ、帯だけ何十本も持って来るようなひとにとって、車にものらず往来する程度の着物ぐらいが、何ほどのことであろう。びしょ濡れになってみることも、時にとっての若々しい一興であったろう。小さな見栄や気位なんかに煩わされるに及ばない程巨大に庇護されている娘の鷹揚さにひかれて妻にする心、つつましやかな働く娘にひかれてゆく心。どちら
前へ
次へ
全43ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング