は、その頃よく新聞などにさわがれたデパートの美人売子がどこそこの次男に見込まれたというような、そんな場合さえ描かれていないことはないのであった。
一人になると、みほ子は足をなげ出し、箪笥へ頭をもたせかけ、上瞼へそれが特徴の鋭さであるスーとした表情をうかべながら、考えこんだ。
みほ子が店で模範店員であるのも、それは彼女が店を無上のところと思い、境遇に甘んじて、その中でいい子になっての結果ではなかった。みほ子の心持の中には、絶えず、生活とはこういうものなのだろうか。これっきりなものだろうか。これっきりでいいのだろうかという本能的な疑問が生きていた。彼女はこの答えの見つからない、しかも心にとりついて離れることのない疑問におされて、謂わば答えを求めて、自分にあてがわれた仕事には本気で当って行った。店では、同じ仕事でも女学校出が一円十銭、小学校出は八十銭というきめであった。こちらの働きかたがどうであっても、それは動かないものだろうか。その気持もあった。
それが目的で模範店員になったのでもないみほ子は、やっぱり毎日が詰らなくて、たまの休日に一日布団にもぐりこんで、おむらに口一つきかず本ばっか
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