かった。積極的な学生は謂わばめいめいが一生懸命になってたぐりよせた一筋二筋の糸につかまって進んで行っているのであったし、学生に対する全体としての方策については、それ自体が一足ずつ爪先さぐりに方向を見出しつつあった。一方では、どちらかというと素朴な形で、労働者でなければ人間でないように云われる風潮もあり、多くの若ものたちは未練なく学校をすてて、他の活動へ入って行っているのであった。
 重吉は複雑な歴史の波を重厚に凌ごうとするように幅のある肩をうごかし、
「君の心持はわかると思うよ」
 明るい外光の中で睫毛のこまやかさのはっきりわかる眼を、真直はる子の視線に向けて云った。
「その考えもわるくはないかも知れないが、もうすこし待って見ないか? いろいろ考えられているからね。学内もたしか変るよ」
「そうかしら」
「ここ一二ヵ月じゃないか」
「そう?」
 傍で黙って聴いている宏子には、勿論、何がどうかわろうとしているのか推察も出来ないことであった。はる子も、それ以上説明を求めようともしない。重吉が自然木の腰かけから立ち上ってのびをしながら、そこに並んでかけている宏子とはる子のどっちへともつかず、

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