きから光井の胸にだんだんひろがり高まっているのであった。それは重吉に対する心持であった。今夜も光井がよくみていると、重吉が泳ぎに例えれば二肩ばかりまわりを抜いたと思われたところがあった。重吉は自分でそれを意識しているのかいないのか、何とも云えない自然の力のこもり工合で、これ迄も折々光井にそういう心を魅するような瞬間を見せた。光井はそういう重吉から昨今自分の眼を引はなせない心持になっていて、二人で酒をのみならったりした高校時代からの友情が将に非常な信頼へ躍りこんで行きそうな予感をもっているのであった。そして、この予感は個人的な道をとおってはいるが、あついものに触れそうで、光井に激しい予期と恐怖に似た感情を味わせているものなのである。
 重吉はまた別な感想をもって黙って歩いていたのであったが、
「ちょっとくって行こうか」
 子供らしいように笑いのある眼差しで、支那ソバ屋の屋台の前へとまった。
 三人はいかにも壮健な食慾でたべはじめた。
「ふ、すっかり曇っちゃった」
 眼鏡をはずしてハンケチでそれを拭きながら、山原がすこし充血した近眼の目をよせるようにして、
「おい、あしたどうする」
 二人
前へ 次へ
全43ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング