る部分の水準へ引下げて今日の歴史の到達点を云々するのは誤りである、なんて、正々堂々と満座の中でやられちゃ浮ばれない。――俺の岩見重太郎だって一つの戦術だよ。或は佐藤重吉に花をもたせるつもりだったかもしれないじゃないか」
 重吉はかぶっているソフトの鍔《つば》を表情のある手頸の動かしかたで黙ってぐっと引下げたが、
「しかしああいう場所で云われる言葉は、それとしてやっぱり客観的な影響をもつものだからね」
と云った声の調子には、おだやかで説得的なあったかささえこもっていた。
「それに問題が問題だろう? 相当大事なんだと思うんだ。なかなか一朝一夕には解決しないことなんだろうなあ。或る意味で人間感情の本質的な進歩にかかってるものね」
 山原は、
「ふむ」
と云ったが、話頭を一転して、
「どうも俺はあの連中は苦手だ」
 大股に歩きながら、ぺっと地面に唾をした。
「結局中途はんぱな実行力のない奴等のすてどころということじゃないのか」
 ずっと黙って重吉と山原の間にはさまって歩いていた光井が、
「そういうのは間違いだ」
 ぽつんと、単刀直入に云ってあとはまた黙ってしまった。ひとくちに云えない感情がさっ
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