内部では大ざっぱにしか理解されなかった一般人間性から、人間の階級性を描き出すことを可能にしたし、更にはかなく弱く権力に踏みにじられる存在でしかあり得なかった個性と、個々の自我とを、複雑多様な階級の性格をなす要因、階級的な自主性・独自性としての自我に拡大再組織してゆく可能性を許されているものです。そしてこの可能性は我々が日夜の努力によって、それを実現するかどうかということにかかっています。
 民主主義文学の任務を私たちの一人一人が、以上のようなものとしてしっかり腹に入れた時、はじめて私たちの民主主義のための全闘争が本当に新しい人間らしい主張として、自分にも納得されると思います。中野重治が、ファシズムとの闘いに関する報告の中でこのファシズムに対する闘いということは、まず第一に、私たち一人一人がそれを自分の問題として、日常生活の中に納得することが必要だといった意味がここにあると思います。

 こうみて来ると、民主主義文学の創作方法についていろいろ云われているその問題も自らはっきりしてくると思います。日本の社会には、まだ社会主義が建設されていないのだから、今のところ勤労者的リアリズムという程度
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