が、とっくりのみこめて肚におさまるように政治的に導びかれなかったということ、経済主義一方では人間性はもちきれないという深刻な事実を示していると思います。もしここに一人の作家があってあの当時の経済闘争の中に揉まれる働く人々をとらえ、その闘争と闘争の過程におこるすべての人間的、社会的な問題を人民解放のひとこまとしてとりあげて描いたとしたら、二月ののちに広汎に起った物取り主義という批判そのものさえも当時あったよりはもっと複雑に労働階級を政治的に豊富にする作用をもち階級性を強める新しいバネとして受け入れられたでしょう。
 民主主義文学の負っている課題は、実に大きく複雑です。民主主義文学は労働階級の動きを表面から模写してゆくのではなくて、すべての勤労者と小市民・インテリゲンチャが歴史の中で、一人一人の必然の過程を通ってどのように新しい推進力として民主革命に参加してゆくかという物語の語り手でなければなりません。ブルジョア文学は一般人間性について語りました。個性と個々の自我について語りました。そこまででブルジョア文学の本質的発展は止っている。民主主義文学は世界の歴史におくり出されて、ブルジョア文学の
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