強くて二月にその頂点をきわめました。この期間日本中にストライキの波が高まり、賃金は上りました。ところが二月のゼネストの計画が流れたあと、何故組合内にいわゆる物とり主義[#「物とり主義」に傍点]に対する批判ということが始ったのでしょう。それにひきつづいて、組合活動における文化面の重要視がおこったのは何故でしょう。
 インフレーションの速度にくらべれば、あの頃労働者が闘い取った賃金は幾らのものでもなくて、今日生活窮乏は一般的です。それだのに何故物取り主義などという索寞とした自己批判が起ったのでしょう。経済闘争だけで終ったとき、人々の心に湧いた人間としての物足りなさ、やったことが間違っていないことはたしかでも、なお一抹のものたりない思い、充実しない感じがあって、こういう声を生んだとしか思えません。それは労働者の正当な雄々しさをかげらせる気分でした。働く者の当然の必要から要求してかち取ったものが、何で物取り[#「物取り」に傍点]でしょう。闘い取った幾らかの金が一人一人の働く人を人生的に何処かでうるおしたことがはっきりと自覚されるか、あるいは、そのようなたたかいそのものの人民的な歴史の上での意味
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