皆を縮み上らせたのは、湯殿の化粧台のそばに落ちて居た一枚の「ぼろ」であった。
 うす黄い、疎な木綿の二尺ほどの布は、何か包んで居たらしく皺になって、所々に金物の錆が穢らしくついて居る。
 何か金物を包んで来たのだと云う事は確かである。
 皆の者は、そのうす汚れた布片れにくるんであった、赤錆のついた鉄棒か斧が、真暗の湯殿に立って、若し誰でも来たらと身構えて居る男の背後にかくされてある様子を思うと、ほんとに背骨の一番とっぽ先が、痛痒い様な感じを起して来る。
 若し自分でも、フト用足しに起きでも仕て、彼那どこの馬の骨だか分りもしない奴の錆棒なんかで、グーンと張り倒されたなりにでもなって仕舞ったら、どんなだったろう。
 さぞ私は美くしく、賢こく、好いお嬢様であった様に云われる事だったろうに。
 美人と云われたけりゃ身投げしろと云われた下女の様な事を考えて居たのである。
 家中は、畳の上まですっかり雑巾をかけられた。
 風呂場の手拭では、どんな事をしたか知れたものでないと云うので、すっかり新らしいのに掛け換えられ、急に呼ばれた大工は、「本職の奴等」につけ込まれない様にしまりをすっかりしなおした。
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