ではないか。
斯うやって考えて見ると、どうしても三時頃に私共が乳を作りに起きた時には、台所の電話室に居たのだろう。
若し、私でなくっても誰かが思いがけない出会い頭に声でも立てたらどんな事になるか。
皆は、ほんとに誰一人目をさまさず声も聞かなかった事を、此上なくよろこび合った。
三面で見る様な、惨虐な場面が、どうしたはずみで起らないものでもなかった。
まあこれぞと取られたものもなしするからほんとによかったとは思ったけれ共、一番部屋の端に寝て居た自分は、きっと蚊帳を通して、自分の寝姿を見られた事は確かだと思うと、女性特有の或る本能的な恐怖は、強く浮き上って来て、自分の眠って居たと云う事は、将して、ほんとの自分の眠りであったろうかなどと云う事さえ感じられて来た。
そして種々恐ろしい様子を想像して見れば見る丈、今斯うやってきのうと同じに、歩き喋り考えて居られる自分が、又外の家中の者が、ほんとに仕合わせであった様に思わずには居られなかったのである。
巡査は間もなく帰って行った。
けれ共、段々彼方此方片附け出すと、泥足の跡のある着物だの、紙片れだのが発見された。
その中でも、最も
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