戸を外から、押したり叩いたりして居た巡査は、急にさも満足したらしい、得意そうな声をあげて叫んだ。
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「漸《ようよ》う分りました。此処からです。此処から入ったんです。
 間違いなく此処です。
 そら、斯う鍵が掛って居ますねそれを斯う分けましょう。そして、錠を突あげると何でもなく明いてしまう。奴等あ何と云ったって、本職なんですからな。
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 それから彼は、靴を脱いで、台所中をすかしながら這い廻った。
 流し元と、女中部屋との間の板の間に、薄く泥のあとが付いて居るけれ共、それもぼんやりして何がどうだか分らないので、
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「此処いらを余程行ったり来たりした様ですなあ。
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と、血が集まって、真赤になった顔を苦しそうにあげた。
 用箪笥のあった奥の部屋へ行って見ると、二棹並べて置いてあった大箪笥の上の、こまかいものが皆下に下ろしてある。
 彼那大きなものを持ち出し、此処でも之丈の事をしたのに、どうして家の者の目が覚めなかったのか、
 どこかに禁厭がしてないかとか、ゆうべ誰かが干物を外へ出して置いたまんまだったの
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