盗難
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)紅絹《もみ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐ
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小さい妹の、激しい泣き声に目をさましたのは、彼れ此れもう六時であった。
三時頃に一度お乳を遣った丈だったので、空おっぱいをあずけたまま、先[#「先」に「(ママ)」の注記]ぐお乳を作りに配膳室へ出て行った。
寝間着のお引きずりのまま、二人が腫れぼったい目にもう強過ぎる日光で、顔をしかめながらお湯を沸かしに台所へ出ると、中央の大テーブルの真中に妙なものが、のっかって居る。
いつも、一番奥の部屋――私共の床のある所の隅に置いてある筈の桐の小箪笥が、すっかり掻き廻した様になって居るのである。
三つとも引き出しは抜きっぱなしになって、私共がふだん一寸拾ったボタンだの、ピン、小布などの屑同様のものを矢鱈につめこんであるのが、皆な引っぱり出されて、あかあるい日の中に紙屑籠を引っくり返した様になって居る。
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「まあどうしたんだろう、
誰が此那がらくたを引っくり返したん
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