だろうね。
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と云って、小さい紅絹《もみ》の布や貝ボタンをひねくりながら、若しかすると母が、夜中に気分でも悪くして、薬をさがしたのじゃあるまいかなどと思って見た。
 けれ共、どうもそれにしても妙である。
 寝室にはスタンドがあるし、それで暗すぎるなら、食堂にだって、その次の部屋にだって、いくらでも電気がつくのに、何もわざわざ此那所までえっちらおっちら持ち出さないでもすむにきまって居る。
 小さいと云ってもかなり持ち重りのするものを、母が長い廊下を運んで来たと云う事は、どんなにしても考えられない事だ。
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「ほんとに変だ、一体誰がこんな馬鹿をしたのかしらん。まあとにかくそうやっとおき、今に皆にきけば分るだろうから。
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 私はブツブツ云いながら乳を作って持って行こうとすると、もうさっきから裏の方を掃除して居た書生が、窓の所から大きな声で、
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「一寸お嬢様、変です、早く来て御覧なさいまし早く。
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と叫んだ。
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「何? どうしたの。
「奥の用箪笥が、遊動円木の
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