そして家中が、何だかザワザワした様子で午後になると、第一に母が頭の工合が大変悪いと云い出した。
 それに続いて、私も何だか後頭部が重くて堪えられないと云うものが沢山出て来て、夜頃には家中の者が渋い顔をして、
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「どうもこれはただじゃあない。
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と云い合った。
 そこで一番気分の悪い母が医者へ電話をかけて泥棒の事をすっかり話してどうも魔睡剤を掛けられたのじゃああるまいかと思うが、若しそうだったらどうしましょうと訊いた。
 そうすると、電話口でお医者さんは大笑いをして云ったそうである。
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「そいじゃあ奥さん、
 よく御不事に生きて被居っしゃいましたねえ。
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 兎に角皆が気分が悪かった。
 そして今夜は誰か起きて居なけりゃあいけないと云う事になったけれ共どれもどれも気が向かない。
 まして女中などを起して置いたって、自分の方からぶつかっても魔睡剤に掛って仕舞って、泥棒が「此処をあけろあけろ」と怒鳴りでもすると、
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「いらっしゃいまし。
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と云って開けて
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