遣りそうだと云うので、結局夜光りの朝寝坊の私が夜番をする事になった。
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「ああいいともいいとも私が居りゃ泥棒だって敬遠して仕舞うさ。
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などと云いながら、少し夜が更けると、皆の暑がるのもかまわず、すっかり戸を閉めて、ガラス戸にはカーテンをすきまない様に引いた。
 そして、そこいら中に燈をカンカンつけた中に、小さい鐘を引きつけて、私は大変強そうに、自信あるらしい様子をして夜番を始めた。
 勿論、すぐ傍には両親の寝室があり、向うの方では書生がちゃんと起きて居るのだから決して私一人なのじゃあない。
 けれ共私は強くなくちゃあならないと思った。
 勿論強いんだろうとは思うけれ共、大抵の時には、いつもこわい事の済んで仕舞った頃漸々強さが出て来るので、一度だって強いと思われた事がない。
 自分でもどうだかよく分らない。
 けれ共、とにかく私はいつも自分の部屋でする通りに気を落着け心を集めて読み書きを仕様とした。
 一時過ぎになるまでは至極すべてが工合よくなった。ところが、フトどうかした拍子に、大窓のカーテンの隅が三寸ばかり、明いて居るのを見つけてからは
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