めった様にペショペショになってある。
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「此那になって居るのを見るのはほんとにいやだ事。一そ一思いに皆持って行って仕舞えば好いのに。
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 私は、醜い形にされた箪笥だの、泥になった好い物などが、しょぼくない形で散らかって居るのを見ると、ほんとにいや――な心持になった。
 今頃は、どっかの屋根の下で、泥棒殿はニヤニヤして居るのだろうと思うと、此那にして大狼狽して居る自分達が、何だか変な心持もした。
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「さあ一体どこから入ったんでしょうなあ。
 一向跡がありませんなあ。
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 巡査は、毛虫だらけの雑木の中をくぐって、垣根際まで行ったり、裏門の扉によじ登ったりして見た。
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「このトタン塀はのぼれませんがね、
 ちと此の門の方がくさい。
 一体斯う云う風に横木を細かく打った戸は、風流ではあるが、足がかりが出来ますから、どうしても用心にはよくないですなあ。
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 私共は、ガヤガヤ云いながら風呂場の前まで行くと、すぐ傍の、隣の地境に、歯抜けになった小階子が掛って居るの
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