っかり大騒動になって仕舞った。
私は、紺がすりの元禄袖の着物に赤い小帯をチョコンとしめたまま、若し何処か戸じまりに粗漏な所があって、其処からでも入られたとあっては、ほんとに余り気が知れていやだと思って、故意《わざ》と閉めたままになって居る家中の戸じまりを見て廻った。
湯殿から水口から、どこの隅までもゆうべ鍵をかけた通りに釘がささり、棧が下りて、鼠のくぐったあとさえもない。
それに足跡もなければ、どの部屋にも紛失物がないので、何が何だか分らない様な心持になって仕舞った。私の部屋の彼那ぼろ雨戸でさえちゃんとして居て、中に一杯ちらかって居る紙屑も本も、玩具も、何一つとして位置さえ変って居ない。
「入るにしても、余程巧者な泥助だ」と思いながら彼方此方歩いて居ると、じきに三十形恰の人のよさそうな巡査が庭木戸の方から入って来た。
家中の者は、此のたった一人の「おまわりさん」が家の者を気味悪がらせた泥棒の始末を付けて呉れるのかしらんと思いながら、ズラリと立ち並んで、第一の発見者である私が、最初の模様を細かに説明した。
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「フフン、そうすると何ですな、矢張り外から入ったで
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