がら、
「君と親父とはどうかしらんが、母親とはまあうまく行くだろう。女同士が円滑なら家の内は丸く納ってゆくもんさ」
 今両親を呼びよせろと云い出している信一の、総領としての世間体や気の弱い良人としての気働きが、案外のところに動機をもっていたのが問わず語りにわかったようで、道子は思わず、
「あなたのお考えと啓さんの考えとは、すっかり同じというわけでもないんですね」
 勝気な気性を出して云った。
「御両親のためにお迎えするのなら私としてはお義兄さんに願うしかないし、もし私のためなら、私は一年や二年こうやって働いて、出来たら勉強もしている方が自由です」
「――啓さんは、じゃどう思っているのかね」
「啓さんには私の気持がわかっています。きょうも会って、話して来たんですもの」
「あんたの気持は、しかし、目下の場合贅沢じゃないか」
 良人が不自由な生活におかれている間、勤めて自分の生活と良人の生活とを守り、勉強もしてゆきたいと希うはりつめた女の気持の、どこに贅沢があるのであろう。
「贅沢って――よくわからないけれど」
 道子はそう云ったまま、河岸のコンクリートの杭にもたれた。同じ河岸の二三間さきの
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