築地河岸
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鬱金《うこん》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)今|漸々《ようよう》胸に落付いた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12、225]《むし》り
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 門鑑を立っている白服にかえして前の往来へ出ると、ひどいぬかるみへ乱暴に煉瓦の破片をぶちこんで埋めたまま乾きあがっている埃っぽい地面とギラギラした白雲との間から、蒸れかえった暑気が道子の小柄な体をおし包んだ。
 永年その一画には高い高い煉瓦塀が連って空の一方をふさいでいた、そこが、昨今急に模様変えになって、高さに於ては元よりも高いコンクリート塀が旧敷地の奥の方へ引込んで新しく建てめぐらされたので、周囲の風景には印象深い都会の貧と荒廃とが露出しているのであった。
 刑務所の塀に沿うた町筋などに軒を並べて来た連中の暮しのほどは、およそ推察されるのであるから、急に大きな塀がとりこわされて無くな
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