ーに火をつけたりして、暫く自分ひとりの考えにこもって歩いている風であったが、やがて思い出したように、
「どういうことにしますかね、さっきの話は――」
小柄な道子の額のあたりへ視線を向けた。
「さあ、何しろ五年の間まるっきり別々な生活でやって来ているのですものね」
「だからなお今がいい機会とも云える」
「啓さんがおれば私何も心配はないと思うんです、お年よりがいらしったって。二人で今までより働いて、女中さんおけばいいんだから。今は、私一人でかつかつなんですもの」
「あっちは経済的にあんたの心配を受ける必要はいらんだろう」
道子は、不図思いついて少し皮肉に、
「じゃいっそお義兄さんのとこへおよびになったら?」
と云った。
「御長男でいらっしゃるし生活は立派に確立していらっしゃるし、一番よろしいわ」
「そりゃ駄目だ」
狼狽を語調に出して信一は早口に拒んだ。
「そりゃまずい。どだい、うちの奴とおっかさんとがうまく行くもんじゃない。両方を知っているからはっきり僕にゃわかっている――絶対駄目だよ」
「私とはうまく行くってわかっていらっしゃるんでしょうか」
ふーむと煙草の烟を目で追うようにしな
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