混乱のうちに、彼女の活気や、無邪気さを、いつともなく毒して行ったのである。
 彼女は、非常な失望に襲われた。
 自分の周囲には一人の仲よしになるべき友達もいず、一人の尊敬すべき人もいないように思われる。
 子供らしい、理性の親切な統御を失った一徹さで、まっしぐらに考えこむ彼女は、仕舞いには生きていたくなくなるほどの物足りなさと、寂寞とを感じずにはいられなかったのである。
 太陽の照るうちは、それでもまぎれている彼女は、夜、特に月の大層美しいような晩には、その水のような光りの流れる部屋に坐りながら、何という慕わしさで、ついこの間まで続いていた「あの頃」を思い出したことであろう。
 多勢の友達を囲りに坐らせて、キラキラと光るように綺麗な面白い話を、糸を繰り出すように後から後からと話していたときの、あんなにも楽しく仕合わせだった自分。
 美くしい絵や、花床や、珠飾りを見ながら、心の中にいつの間にか滑りこんで来る仙女や、木魂や、虫達を相手に、果もない空想に耽っていた、あのときの夢のような心持。
 自分がものを覚えるようになった日から続いていた幻の王国の領地で、或るときは杉の古木となり、或るとき
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