は小川となり、目に見えぬ綾の紅糸で、露にきせる寛衣を織る自由さえ持っていた自分は、今こうやって、悲しく辛い思いを独りでがまんして坐っている。
 自分のすべての幸福と歓びは、皆もう二度と来ないあのときの思い出の中に眠っているのだろう。
 彼女はあのときと、今とのこんなにも違う心持の間に、何の連絡も見出せなかった。
 なぜ自分はこんなにも、辛い思いをしなければならないのだろう。
 大人も、友達も、皆のんきに笑い、喋り、追いかけっこをして遊んでいるのに、たった独りぼっちの自分は、なぜこんなに淋しく、こんなにも悲しい目に会わなければならないのだろう……。
 仕合わせや、楽しさは、皆、皆もうあの女王様や王様と一緒に、捕えられない彼方へ過ぎてしまった。あのときは、すぎてしまった……。もう仕方がない。感傷的な心持の頂上まで来る彼女は、魂のしんから泣吃逆《なきじゃく》りながら、真面目につきつめた心で死を思うのである。
 強情や反抗は、すっかり憂鬱に形をかえ、意地も張りも忘れた彼女は、転換したくてもする方法を知らない心の不調和を感じる可哀そうな子供として、自分の死を想ったのである。
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