って来る感じ、強烈な、盲目的な感じを、静かに分解し、解剖して、感じの起された原因を探ったり、批評したりすることはとうてい出来ないのである。
そういうことに出会うごとに彼女はどうしようにも仕方のない情けなさと、腹立たしさに心を掻き※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77、300−13]《むし》られた。ちょうど、小さい子供が天気の落着かない夕方などには、よく理由の分らない焦躁と不安とに迫られて急に泣き出すことがある通りに、押えどころのない不愉快、陰気さに苦しめられる彼女は、泣き出さないまでも、惨《みじ》めな、暗い心持にならずにはいられなかった。非常な羨望をもって描いていた大人の世界の美くしい、立派な理想は、皆くだかれて、恐ろしい厭わしい事物に満ちた「うき世」が彼女の前に現われたのであった。
今まで何も知らずに打とけて、思うままを話し合っていた仲間にも、彼女は「気をつけなければならない」ことを見出し、崇拝しようとした人々は、その価値を減じてしまった。
そして、封じこめられた多くの「感じ」ばかりが次第次第に種類をまし、数をまし、互に縺《もつ》れ合い、絡まり合ってまるで手のつけられない
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