命であった。
 そして、些細な失策や、爪ずきには決してひるまない希望を持っていたのである。
 けれども、時が経つままに、彼女の理想がどんなに薄弱なものであり、その方法や動機が、動揺しやすい基礎の上に立っていたかを、証明するような事件が、次から次へと起って来た。そして、彼女の物質的助力や、熱心にはしたつもりの助言は失敗に帰したことが明瞭に示されることにならなければならなかったのである。
 客観的の立場からみれば、それは当然来るべきものであった。それどころか、若し来なければ、彼女は恐ろしい不幸に陥らなければならなかったほど、それは意味ある、「尊い失敗」であった。
 けれども、最初のあの嬉しさに対し、希望に対し、第一に引き上げ、高められるべきはずだった多くの「彼等の魂」を、もとのままの場所からちっとも動かし得ずに、遺さなければならなかったことは、彼女にいかほどの、苦痛を感じさせ、赤面を感じさせたことだろう。
 かつて、「ああやっと来た!」と書いた言葉の前へ面を被いながら、彼女は
 達者で働いておくれ! 私の悲しい親友よ!
という、訣別の辞を与えなければならなかったのである。

       
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